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マツ枯れを予防する

もくじ

マツ枯れのメカニズム

 マツ枯れ(マツ材線虫病)は、“マツノザイセンチュウ”と その媒介者である“マツノマダラカミキリ”(以下カミキリ)によって引き起こされます。

 体長1mm程度のマツノザイセンチュウはマツノマダラカミキリの気門(呼吸するための孔)に入り込み、 カミキリがマツの樹皮を食べた際にマツに乗り移ります。 マツノザイセンチュウはマツの細胞などを食べながらマツの中を移動し、増殖します。 すると、マツの生理機能に異変が生じ、通水障害が起きて、マツが枯れてしまいます。
 カミキリは、センチュウによって弱ったマツに産卵します。ふ化した幼虫は樹皮下を食害しながら成長し、 樹体内で越冬して翌春センチュウを伴って脱出していきます。

 温暖な地域では、夏から秋にかけて葉が紅葉したように変色し、多くが年内に枯れてしまいます。 冷涼な地域では、外見が正常なまま年を越し、翌年の春から夏にかけて枯れる「年越し枯れ」が見られることもあります。

マツ枯れの見分け方

 マツ枯れ被害の特徴としては、

  1. 古い葉から枯れる
  2. 樹脂(松ヤニ)の分泌が少なくなる
  3. カミキリの産卵痕や脱出痕がある
といったことがあげられます。

マツ枯れの予防と駆除

 枯れたマツをそのまま放置していると、そこがカミキリの産卵場所となり、さらなる被害の拡大を助長してしまいます。 被害木を見つけたら、一刻もはやく伐採して処理するのが大切です。

樹幹注入剤の利点・欠点

 マツ枯れの予防方法のうち、マツノザイセンチュウ対策としては、樹幹注入剤の利用があげられます。

 樹幹注入剤には、ドリフト(散布された農薬が目的外の作物に付着してしまう現象 )の心配がないなど、 薬剤散布にはない利点がありますが、使用方法を間違えると薬害が出るなどの弊害が起こるため、注意が必要です(下表参照)。 大切な樹木を守るために、樹幹注入剤を使用する際は使用方法をよく確認した上で施工を行いましょう。

利点
  • 薬剤が飛散しないため環境に優しい
  • 単木処理のため、確実な防除が期待できる
  • 長期間効果が持続する
欠点
  • 樹幹に薬剤を注入するために数ヶ所の穴を開ける
  • 樹種や樹形によって樹幹注入剤が適さないマツがある
  • 適切に施工されないと十分な効果が得られないのに加え、必要以上に樹木を傷つけてしまう

樹幹注入剤を利用する際の留意点

項目 ポイント
施工対象木
  • 樹幹注入に比較的適している樹種
    • アカマツ(Pinus densiflora)
    • クロマツ(Pinus thunbergii)
    • リュウキュウマツ(Pinus luchuensis)
  • 施工前に、樹脂の出方による健康診断方法を実施して、対象木が健全であることを確認する
  • →樹勢が弱まり、養水分吸収機能が低下している(=樹脂滲出量が少ない)個体では、 樹木上部への樹幹流の速度が低下しているため、注入した薬剤の吸収・移行・分散が困難なことが考えられ、 樹幹注入には適しません。
  • 剪定後間もない個体や過度に剪定されたマツは樹幹注入には適しません
施工時期
  • 冬期(11月〜3月)※地域によって異なります
  • 目安として、以下の時期にすると良いと考えられています
    • 大径木(胸高直径50cm以上) カミキリ羽化脱出日の6ヵ月まえ
    • 中径木・樹勢の低下した個体  カミキリ羽化脱出日の2〜3ヵ月まえ
    • 樹勢の良いマツ        カミキリ羽化脱出日の1ヵ月まえ
    →媒介者であるマツノマダラカミキリが羽化脱出する(=マツノザイセンチュウが拡散される)時期より前に、 薬剤を樹体内にまんべんなく移行分布させ、センチュウの致死濃度にしておく必要があります。
施工の
時間帯
  • 樹幹注入剤の成分は、樹体内の水の移動にともなって枝先まで移行するため、 施工は水の上昇が最も速くなる晴れた午前中に行うのが最適
打ち方
  • 施工位置については、以下について確認する
    • 樹幹の表面が滑らかで死節がないこと
    • 枝の直下でないこと、また、頂上部まで途中に枝がないこと
    • 粗皮の薄い(樹木が生長している)部位であること
    • 木内が空洞になっていないこと(木づち等で叩いて確認)
  • 2箇所以上穿孔する場合は、千鳥打ちとする
薬剤濃度
  • 薬剤により有効成分の濃度が違うため、必要に応じて使い分ける
  • 施工後は、樹体内の濃度検査を行い、薬剤濃度が適正であるか確認することをお勧めします
  • →薬剤が順調に枝先まで行き渡っても、濃度が低ければセンチュウに対する十分な効果が得られません。 また、濃度が高すぎると薬害により枯れが生じてしまう場合があります。
薬剤の
持続期間
  • 薬剤に表示されている効果持続期間内であっても、個体によっては枝先の薬剤濃度が十分でない場合があるため、 表示された効果持続期間を目安とし、枝先の薬剤濃度を確認しつつ再施工を行う

 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所では、マツ材線虫病のメカニズムと対処法について詳しくまとめられた冊子が公開されています。ぜひご一読ください。  ▼掲載ページ 森林総合研究所「マツ材線虫病にどう対処するか ―防除対策の考え方と実践―」