トピックス

病虫害を予防する

病虫害が発生するメカニズム

 植物の病虫害は、“病原菌や害虫”の存在、“環境や栄養条件”、“病虫害が発生しやすい植物の性質” の3つが揃ったときに発生します。

 症状が出る出ないにかかわらず、植物の周辺にはたいてい何らかの病原菌や害虫が潜伏しているものです。 適切な管理(施肥や剪定・刈込、芝生の場合はエアレーション、サッチの除去など)によって、植物を健全に保ち、 病虫害の発生を予防することが大切です。

病虫害発生要因

抵抗性獲得と総合的防除

 殺虫剤や殺菌剤を使用する上で注意しなければならないことは、同じ薬剤を使い続けると、 だんだん効かなくなってしまうことです。 これは、薬剤に対して抵抗性のある個体(抵抗性害虫・抵抗性病原菌)だけが生き残って繁殖し、 集団全体が抵抗性を持つようになるために起こります。
 同じ殺虫剤を使い続けると、抵抗性害虫の増加に加え、天敵類が殺虫剤のために減少して害虫の増加を抑制できなくなるため、 対象害虫が大発生することがあります。この現象は「リサージェンス」と呼ばれます。
 こうした現象を防止するためには、“総合的な防除”を行うことが大切です。総合的な防除とは、病虫害の発生状況に応じて、 “生物的防除”(天敵など)や“化学的防除”(殺虫剤・殺菌剤の散布など)、 “物理的防除”(防虫ネット・粘着板の設置など)等、多様な防除方法を適切に組み合わせ、病虫害の発生を抑制することです。

様々な殺虫剤

 殺虫剤は、成分の性質や由来によって、以下のように分類されます。

殺虫剤の種類 成分の性質や由来、特徴など 商品例
有機合成殺虫剤
  • 化学的に合成された物質で、現在使われている剤のほとんどが該当
  • 優れた殺虫効果
アトラック
アセルプリン
天然殺虫剤
  • 石油・硫黄・植物成分など、自然に存在する物質が主成分
  • 比較的古くから利用されていた
  • 有機合成殺虫剤に比べ、使用場面や対象害虫が限定的
マシン油
石灰硫黄合剤
昆虫フェロモン剤
  • 昆虫が分泌するフェロモン(同じ種類の昆虫の行動に影響を与える物質)を化学的に合成したもの
  • 殺虫作用はないが、昆虫の行動をかく乱したり、誘引するために利用
  • 防除できる害虫の種類や使用条件がきわめて限定的
ニトルアー
微生物殺虫剤
  • 昆虫に寄生する菌・細菌・ウイルス・線虫などの微生物を利用
  • 防除できる害虫の種類や使用条件がきわめて限定的
バイオトピア
バイオリサ(ボーベリア菌)
天敵
  • 害虫を捕食したり、害虫に寄生したりする昆虫やダニ類を利用
  • 防除できる害虫の種類や使用条件がきわめて限定的

殺虫メカニズム

 殺虫剤の殺虫作用には、化学的な殺虫作用と物理的な殺虫作用があります。

<化学的な殺虫作用をもつ薬剤>

  害虫にとって毒性のある薬剤で、虫の体内で生命維持に重要な生理機能や物質代謝を阻害します。 虫の体内への侵入経路によって、接触殺虫剤・食毒剤・燻蒸剤に分けられます。

【接触殺虫剤】
  • 薬剤が虫の皮膚から浸透する
  • 商品例)トレボン
接触殺虫剤
【食毒剤】
  • 表面や体内に薬剤が残留している植物を虫が食べることで殺虫効果が発揮される
  • 接触殺虫剤などに比べ、殺虫効果が現れるのに時間がかかるものの、 植物内での残効性に優れた製品では長期間の効果が期待できる
  • 商品例)アセルプリン、アトラック
食毒剤
【燻蒸剤】
  • 薬剤がガスに変化し、呼吸により虫の体内へ侵入
  • 密閉した場所や土壌中で使用
  • 商品例)NCS
燻蒸剤

 また、薬剤によって虫の体内での作用は様々で、以下のようなタイプ(一例)に分けられます。 さらに、同じタイプであっても、薬剤の有効成分によって“殺虫メカニズム”(機構)は異なってきます。

 化学的な殺虫作用のある薬剤を使用する上で注意したいのは、同じ薬剤を使い続けると、抵抗性害虫が増加して、 薬剤の効きが悪くなってしまうことです。こうした現象を防ぐためには、 何種類かの殺虫剤を交互に使用することが大切ですが、より正確に言うと、 殺虫メカニズムが異なるタイプの殺虫剤を交互に使用することが必要です。

<物理的な殺虫作用をもつ薬剤>

 虫の体の表面を膜で覆って呼吸ができない状態にし、窒息させることで害虫を死に至らしめます。 この効果は虫の抵抗性の影響を受けないため、抵抗性害虫が増加することはなく、薬剤を使い続けても、 効きが悪くなることはありません。

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物理的な殺虫作用

植物の病気の原因

 植物の病気は、大きく“感染症”と“非感染症”に分けられ、 現在わかっている感染症のうち、約80%はカビ(菌糸を形成する菌類)、約10%は細菌が原因で起こります。

感染症 ウイルス、細菌、カビなどの病原体によって引き起こされる症状
非感染症 水や養分の過不足や有害物質、気象条件などにより起こる症状

植物の抵抗性機構

 たいてい、ある病原菌は特定の植物にのみ病害を発生させます(宿主特異性)。 これは、植物の病原菌への抵抗性と関係があります。

 植物は普通、病原菌に対する抵抗性機構を持っています。 ほとんどの菌は、植物に侵入した際に抵抗を受けて侵入を断念します。 しかし、菌の中にはある特定の宿主植物において、抵抗性機構の発動を停止できる能力を持っているなどで、 抵抗を回避できるものがいます。そういった菌は、抵抗を受けることなく植物内に侵入し、病原菌として作用します。 菌によって、どの植物において抵抗を回避できるかが違うため、宿主特異性が生まれるのです。

 土壌内の病原菌は、普段は他の土壌微生物と土壌中で共存しつつ、 宿主に出会った時には他の微生物(特に宿主の根圏微生物※1)との競合に打ち勝って、宿主に感染しなければなりません。 したがって、土壌内の病原菌の感染を防ぐには、根圏の環境を健全にし、有害でない根圏微生物を増やすことで、 その拮抗作用※2により病原菌を増やさないようにすることが有効です。

植物の抵抗性機構

※1:根圏微生物

 根圏とは、植物の根の影響を受けている土壌領域のことで、植物の根から分泌される物質を利用する微生物が集まり、 活性が高い状態となっています。これらの微生物の中には植物にとって有用な働きをするものもいます。

※2:拮抗作用

  土壌中に様々な微生物が存在することで資源や空間が限られ、病原となる菌の繁殖が抑制される作用

菌の生態・その変幻自在な姿

 「菌はどんな姿をしているの?」と聞かれたら、皆さんはどのような姿を思い浮かべますか? キノコ類を除き、菌の多くは小さくて肉眼ではよく見えないため、なかなかはっきりとした姿を見る機会がありませんが、 実は、生きるために状況に合わせて姿を変える芸達者な一面をもっています。

 「菌類」とは、カビ、糸状菌、キノコ、酵母、粘菌などと呼ばれている生物の総称です。その姿や特性は実に多様で、 たくさんのグループに分けられます。菌類全体に共通しているのは、@核を持つ、A光合成色素を持たない、 B胞子で繁殖・拡散する、という点です。

@核を持つ

 核とは、細胞内にある器官のひとつで、核膜に包まれており、その中には遺伝子情報であるDNAが入っています。
 菌類と細菌類は、同じ“菌”という字がついていますが、核を持つ菌類(真核生物)と核を持たない細菌類(原核生物)は、 分類学の上ではまったくの別ものなのです。
※細菌もDNAを持っていますが、核膜がないためほぼ裸の状態で細胞内に存在しています。

A光合成色素を持たない

 光合成色素を持たない菌類は、植物のように光合成を行って自らエネルギーを作り出すことができません。 そのため、ほかの生物から栄養を吸収することで生活しています。
 植物の病気の原因となる菌は、言い換えれば植物をえさ(栄養源)とする菌といえます。 つまり私たちは、植物が菌によって養分を吸い取られ、栄養不足になった状態を病気と呼んでいるのです。

B胞子で繁殖・拡散する

 胞子は、植物でいえば種子のようなもので、病原菌の伝染の主役といえます。 大きく分けると、胞子には水中を泳ぐことのできるもの(遊走子)とそうでないものの2つのタイプがあります。

 菌は種によって、アメーバ状だったり、糸のような形(菌糸)だったりと様々な姿をしています。 また、再生能力が高く、細胞の断片や、細胞がいくつか含まれる菌糸断片から元の姿を再生することができます。 そのため、病気が発生した場所で使用した道具を他の場所で使用すると、 道具に付着した細胞の断片によって病気が感染する恐れがあり、注意が必要です。

 さらに菌は、そのときの状況にあわせて自身の形態を変化させることができます。 たとえば、普段は菌糸状をしている菌の中には、夏や冬といった厳しい環境をやり過ごすために、 菌糸が集まって塊(菌核)を形成したり、胞子の周りを菌糸が覆って保護したり(子のう球)するものがいます。
 また、菌の中には状況にあわせて、性質の異なる胞子を作るものがいます。 そうした菌は、生存に適した環境では大量の胞子を作ります。このときに作られる胞子には、 悪環境に耐える丈夫さはありませんが、風によって飛ばされたり、水中を泳いでどんどん勢力を拡散していきます。 一方、乾燥や低温などで、菌の生存が危機にさらされたときは、悪環境に耐えられる丈夫な胞子が作られ、 土の中などで環境が良くなるのをじっと待ちます。

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菌の生態

参考文献